税理士・森田貴子さんの著書『億万長者になるお金の使い方』を読んで、まず驚いたのはタイトルへの”裏切り”でした。
著者自身がこう断言しています。**「本書は億万長者をめざす本ではありません」**と。
では何のための本なのか? 一言で言えば、**「自分の望む人生を自由に生きるための、お金の哲学を身につけること」**です。
30年以上富裕層専門の税理士として、1,000万枚以上の領収書を見続けてきた著者が、その経験から導き出した「支出哲学」——それがこの本の核心です。

お金があっても幸せでない人がいる、という現実

「お金があれば幸せになれる」という考え方は、実は半分しか正しくありません。著者は長年、富裕層の財務を支えてきた経験から、金銭的な豊かさだけでは幸福は保証されないと感じてきました。
では、本当の豊かさとは何か?
本書が提唱するのは「ファイナンシャルウェルビーイング」という概念です。
これは単に「お金をたくさん持っている状態」ではありません。
経済的な自立と心身の健康を土台に、限りある人生を自分の望むように生きられる”選択の自由”がある状態——それが著者の考えるファイナンシャルウェルビーイングです。
お金は手段であり、目的は「なりたい自分になること」。
そのために支出をどう使うか、という哲学が人生を変えていく、というのが本書全体のメッセージです。
お金の使い方は「本音」を映す鏡
「本屋を応援したい」と言いつつAmazonで買う人、レストランで「また来ます!」と言って二度と来ない人——言葉はいくらでも取り繕えますが、お金の使い方だけは嘘をつけません。
本書の出発点はここにあります。お金の使い方こそが、その人の本当の価値観・優先順位を映し出すという考え方です。
では、自力で富を築き、それを維持し続けている人たちは、実際にどんなことにお金を使っているのでしょうか?
お金には4つのスキルがある——「使う」を軽視しない
本書では、お金に関するスキルを「稼ぐ・貯める・守る・使う」の4つに整理しています。
多くの人は「稼ぐ」「貯める」「守る」には関心を持ちますが、「使う」については意外と無頓着です。ところが富を持続させている富裕層は、この「使う」という行為に独自の哲学を持っています。何にお金を使うかの判断が、長期的な豊かさを左右するというのです。
富裕層が投資しているのは「見えない資産」

最も印象的だったのが、成功している富裕層ほど**目に見えない資産(無形資産)**にお金をかけているという事実です。
高級車・時計・ブランド品といった「見える資産」ばかりに偏る人は、長期的に富を維持しにくい傾向があります。一方で、富を築き続けている人たちが共通して投資しているのは、次のような8つの「無形の資産」です。
- 健康 — 体が資本。体調不良は機会損失に直結する
- 学び・教養 — 知識は行動の質を上げ、判断力を高める
- 信用 — 言行一致の積み重ねで育つ、最大の無形資産
- 人間関係 — 価値観の合う人との縁はお金で買えない
- 時間 — 時間の使い方こそ人生の質そのもの
- 環境 — 自分を取り巻く環境は思考・行動に影響する
- 感性 — 美や本質を見抜く力は投資の精度も上げる
- 未来の選択肢 — お金は「選べる状態」を維持するためにある
どれも派手さはないけれど、積み重ねるほど人生の土台になるものばかりです。
「支出哲学」は即効薬ではなく、じわじわ効く
著者が強調していた点として印象に残ったのが、支出哲学の変化は**「じわじわと価値観や行動習慣を変えていくプロセス」**だということです。
すぐに劇的な変化が起きるわけではありません。時間をかけて、豊かな人の思考やライフスタイルが身につき、やがて行動が変わり、経済力にもつながっていく——それが著者の説く支出哲学の本質です。「早く結果が欲しい」という思考自体が、富から遠ざかる発想なのかもしれません。
具体的に、何にお金を使っているのか

旅行・体験
著者の知る限り、旅行を全くしない富裕層はいなかったそうです。同じ場所・同じ人・同じ情報の繰り返しでは思考が固まります。新しい場所に身を置くことで視野が広がり、予期しない出会いや発見が生まれる。1973年に鈴木敏文氏が渡米してセブン-イレブンを視察し、日本進出を決断したエピソードはその典型例です。写真や資料では得られない「現地で感じる体験」が、大きな決断の起点になるのです。
本・情報
富裕層の領収書には、古典・哲学書・専門書・日経新聞などが数多く登場します。ポイントは「知った」で終わらせないこと。本から得た知識を行動に移して初めて、情報がお金に変わります。
健康
体の健康は全ての基盤。パーソナルトレーナーの活用、定期的な人間ドック、2〜3ヶ月ごとの歯科検診など、予防的なケアにお金をかけることが共通しています。富裕層は健康維持を「自分のため」だけでなく「周囲への責任」と捉えているのが印象的です。
心の健康・趣味
キャンプ・ハイキング・スキーなどのアウトドア活動、芸術鑑賞、スポーツ——こうした「心の栄養」にも惜しまずお金をかけています。資産40億円超の富裕層を対象にした趣味調査でも、アウトドアが上位に来るのは「ビジネス思考をリセットする」ための意識的な投資です。
人間関係・おもてなし
手土産・会食・自宅への招待など、人との縁を育てることにお金をかけています。ただし、その土台となるのはお金より「基本的な礼儀」——時間を守る、約束を守る、言葉遣いを大切にする。これが信頼の根本です。
投資
株式・不動産・債券など、多角的なポートフォリオを組んで資産を分散させています。お金をただ貯めるのではなく、「お金にも働いてもらう」という発想が徹底されています。
家族・社会貢献
家族との時間・体験・教育にもしっかり投資し、寄付や地域貢献にもお金を回す。「自分が豊かになるだけでなく、周囲も豊かにする」という意識が、長期的には自分にも還ってくる、という循環的な発想です。
まとめ:「何のためにお金を使うか」が問い直される一冊

本書を読み終えて残るのは、一つの問いです。
「自分のお金の使い方は、自分が目指す人生と一致しているか?」
支出とは単なる消費ではなく、価値観の表明です。富裕層が無形資産にお金をかけるのは、それが「選択の自由」を広げ、将来の自分を豊かにするとわかっているからです。
著者が示す「ファイナンシャルウェルビーイング」の考え方は、億万長者でなくても使える普遍的な哲学だと思います。今すぐ全てを変えなくていい。まず一つ、「これは未来の自分に残る支出か?」と問いかけてみるだけで、少しずつ人生の見え方が変わっていく——そんな本でした。
本記事は森田貴子著『億万長者になるお金の使い方』(SBクリエイティブ)の内容をもとにまとめたものです。

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